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August 15, 2005

十人十色、法務部いろいろ(第六回)・・・法務というお仕事(4)自問と「2時間契約」事件

前回の終わり   前回まではこちら→第一回 第二回 第三回 第四回 第五回
次回は、課長からの指導に対して考えたことと課長の最後の発言にあった「こないだの一件」=「2時間契約」事件について触れる事にいたします(つづく)。

1.法務相談用の部屋でのろじゃあの自問
  ろじゃあは、法律相談用の部屋で何を考えていたのでしょうか。概ね以下のようなことです。

1.自分のことはかなり知れ渡っているらしい→社内での行動には注意を
2.新入社員としていくらでも失敗していい?→本音と建前の境界はどこだ
3.自分の行動で影響を受ける人間は誰だ
4.本社の他のセクションとの関係でも失敗はやり放題なのか
5.自分に期待されているのはどんな役割なのか

 いま、考えると青いというかなんというか、視野の狭いことやってたような気がします。一応、25ぐらいだったんですけどね(^^;)。以下項目ごとに法務スタッフの心得(給与所得者の心得)的に簡単に分析だけしておきます(なかなか「2時間契約事件」に入れないなあ・・・(^^;)。

1.自分のことはかなり知れ渡っているらしい
  これは、いろんな意味で困りました。と同時に後から考えると相当仕事はしやすかったですし、ちょっぴり得なこともありました。   まず、困ったのは課長から「みんなに知られている」ということを指摘されて、最寄駅から本社に入って職場に行く途中、そしてその後、そして勤務中、常に一定の視線で見られているという感じがしばらく抜けなかったことです。これ、法務の仕事に限らずですけど、「そんなことも知らないの?」って視線が向けられるときがあるんですよね。これ慣れるまでに相当時間がかかりました。後から先輩の女性スタッフに聞いたら「あんたは自意識が過剰なだけ。気にしなきゃいいのよ、おばか」と言われました。この方には今も頭があがらないような気がします。   あっ、それとろじゃあほど外見に問題がない新入社員は通常女性からパートナー候補という視線を受けることがあるらしいのですが(当時は結構あったらしい)、ろじゃあの場合は、その点は全く心配?ありませんでした。入社時点で既婚者であるという情報もなぜか本社中に知れ渡っておったのですね(^^;)。   いまは昔ほど、この手の話はややこしくないかもしれませんが、本社にせよ営業店にせよ、当時の同期の連中は、大なり小なり配属されて二・三ヶ月でこの手の「洗礼」を受けることになったようです。サラリーマンの世界はこの「仕事」周辺の世界のお話が結構いろいろと仕事に絡んでくるのがやりづらいというところは今もあるかもしれませんねえ・・・若い諸君、今はどうなんでしょうか?   その点、「○○君(←ろじゃあの本名)には誰かいい嫁さん世話させてもらうよ」といってくれた某専務はおられましたが、既婚者ですと早い段階でご丁重にお断り申し上げました(^^;)。この専務については担当していただいてた期間中、相当お世話になりました。そして公私の「公」と公私の「私」で忘れられない出来事があります。これはどっちかってえと「外伝」ネタですがね。まあ、そのうちに。   本線にもどりますと、相当仕事がしやすかったのも実はこの「一定の視線」のおかげではあります。皆さん、「法律にうるさい奴」が来たと思っておられたらしく、法律相談とか他部署との会議でも相手の方が気を使ってくれちゃうわけです。ところが、そうでもない場合も結構あることを既にろじゃあは知っていたのであります。それが、「2時間契約事件」としてろじゃあが今も記憶している出来事なのでござります。

2.突然の訪問者
  運命の電話事件から遡ること一週間のことでございます。自席で仕事しているろじゃあの後ろを体格のいい兄ちゃんが通り過ぎ、隣の課長に話しかけました。
「Hさん、すんません、助けてくださいよ」
そういって課長の前に契約書らしきものといくつかのパンフレットなどを差し出しました。
「ばかやろう、なんだ、いきなり。おめえはいつも強引だなあ。どうしたんだ、一体。おめえが頭下げてくるときはろくなことがないからなあ」そういってタバコを取り出し咥えて火をつけます(←ろじゃあの入社当時はまだ本社内では自席でタバコが吸えたんですよ(^^;))。
「Hさん、説明してる暇ないんすよ、頼んますから、契約書作ってくださいよ。K専務案件なんですよ」
「そうか・・・しゃあねえな、ちょいと見せてみな」
そういって課長はしばらく手元の契約書らしきものをながめて一言。
「だめだな、こりゃ。このまんまじゃ契約できねえよ。週末ぐらいでいいか?」
「それが、そんなんじゃ困るんですよ。どうしても4時までに欲しいんですよ」
「なんだと?ばかやろう、あと2時間しかねえじゃねえか。この塩梅だとほとんど作り直しだからよう、ワープロ打ちしてもらう時間抜いたって、間に合ぃやしねえぞ。こっちはおめえのところだけの仕事やってるわけじゃねんだ、ふざけたこと抜かすならとっとともって帰ぇれ」
「そんなこと言わないでくださいよ。先方にも連絡しなきゃいけないし、専務にもせかされてるんですよ」
「だいたい、いつからこの話は来てたんだ、おめえがホッポイといたんじゃねえのか?だいたなあ・・・」
といいかけて彼の体越しに体をよじって課長がろじゃあのほうを見ています。
「おい、○○、ちょっとこれ作ってやれ」
「えっ、僕っすか?」j
と自分を指差すろじゃあを尻目に話は進んでいきます。
「おい、Y、こいつは、うちのエースでな、新入社員ながら修士様なんだよ、法学の。こいつなら打ち上げまで含めて何とかなるだろう。俺がやるより速ええよ。貸してやっから持ってきな」
Yさんという人はこちらを一瞥すると、ろじゃのことを睨みつけてます
おいおい、なんで俺が睨み付けられなきゃなんねんだよ・・・
「わかりました、Hさん。彼、2時間お借りします。さあ、○○君、一緒に来てくれ」
「おい、そいつは、他の仕事も抱えてんだ。使うならうちの会議室で使ってくれや」
そういって課長は自分のやりかけの仕事に集中し始めます。たぶん気のせいだとは思うのですが・・・かすかにY氏の舌打ちが後ろで聞こえた気がしたんですよねえ・・・とほほ。でも、こうなると課長は何も気にしません。自分でも電話はとりません。
「おい、君はワープロは打てるか?」
突然後ろから聞かれて反射的に
「はい、OASYSなら」
「そうか、それは都合がいい。親指だよな」
「はい、親指シフトです」
「よし、ちょっと電話借りるぞ」
そういって彼は、自分のセクションに電話を入れてOASYSのポータブルサイズを会議室まで持ってこさせたのであります。

3.踊る大ドラフティング
「さあ、じゃあはじめよう。僕は企画のYだ。君が○○君か。頼むよ」
そういってYさんは概要を説明し始めました。
「時間がないからようく聞いてくれ。一度しか言わない。今回の件は、当社の基幹事業である○○○○関係のサービスとの関係での業務提携に関するものだ。契約の相手方は、先方の日本ブランチ。英語版の方は君が今作ってくれる文を参考に僕らのほうで何とかするので、日本語の分を早急にドラフトしてもらいたい。君を2時間拘束するわけだから、俺はここで君が聞きたいことは何でも答える。だから時間内に必ずドラフトして現物を俺にくれ。わかったな」
「はい」
というしかありません。なんなんだ、この威圧感は。内心は心臓バクバク状態になっていました・・・外国企業との業務提携契約書だあ・・・こんなもんどうやって作れってんだよ。まだ日本語の契約書のドラフトの仕方すら、課長から教わってねえんだぞ・・・
「ちなみに、これが先方から送ってきたドラフトだ。Hさんはイチから作り直しだといってたが、そんなにひどい内容なのか?どこが悪いんだ?教えてくれ」
内心、助かったと思いました。ゼロからはいくらなんでも・・・。業務提携契約書のひな型ぐらいはどこかにあるでしょうが、今からでは探している暇はありません。ドラフトしたものを課長に目を通してもらう時間を入れるともう1時間ぐらいしか実質的にはないんですから。しっかし、初見でどこが悪いといわれてもなあ・・・しかたねえ、読むべ・・・と目を通し始めると
「で、どんな感じなんだよ」
すいません、5分間だけは黙って読ませてください
ほぼ、脊髄反射でした(^^;)。
「まあ、そりゃそうだな。悪かった。頼むわ。何か冷たいもん飲むか?」
そういって彼は部屋を出て行きます。ちょうど5分後ぐらいにコーラを持って彼が帰ってきました。
「で、どうだい?」
「はい、確かに、課長が言うように、条文上の字面の点でちょっと不利なところが多いですね。これ弁護士に頼んでドラフトしてもらったんでしょうか?」
「おう、たぶんそうだと思う。具体的にどこを直せばいい?」
「まず、費用分担のところですが、これはこの割合でいいんっすか?あと支払いについてどの貨幣でいつのレートでってのを入れておいたほうがいいような。3つ目として、損害賠償についての規定のところでうちにも先方にも過失がない場合についてうちがリスクをとることになってますし、過失について、先方の分については重過失になってるんですけどうちの分については過失になってます。4つ目としては、紛争が生じたときの裁判所の規定が入ってませんので管轄裁判所は東京地方裁判所って一文入れといたほうがいいと思いますよ。j5つ目は同じように問題が生じたときの法律はどこの国の法律にするかについての規定が入ってませんが、通常入れるでしょう。準拠法っていうんっすけど日本国法で押せるんならそう入れといたほうがいいっすよ。その他は、え~っと、業務の範囲のところ、これもう少し明確にしといたほうがいいと思います。サービスの提供場所に海外が入るのか、海外ならすべて入るのかとか、有償のサービスか無償のサービスか、サービスの提供主体は誰か、業務委託先が入るのかどうか、そこが悪さしたときの責任とか・・・契約締結時の先方の方は、日本の副代表ではなく日本代表にしておいたほうがいいと思いますよ。大体そんなところですかねえ。」
「Hさんが言ったとおり全とっかえじゃねえか・・・ふざけた奴らだなあ」
「まあ、好き勝手ぶつけてくるもんなんじゃないんすか?こんな場合。こっちも直して向こうにぶつければいい訳で」
「簡単に言うんじゃねえよ。俺が交渉するならいいんだが、さっきの専務が交渉するんだから、営業上の配慮ってもんもある程度は必要なんだ。だから、お互いにガチンコで言いたいこと言い合うって訳にはいかねえんだ」
「それじゃあ、ちょっと文章をやわらかくしておきますね」
ある程度余裕が出てきました。国際法の先生の部屋でお茶飲ませてもらうためだけに遊び行ってたときの話しが結構役立ってくれてしまってた訳で。
  とはいえ、ちょいと自爆だったかもしれません。項目を多く挙げるということはその分だけ自分でドラフトしないといけないわけで・・・う~ん、あっ、ひな型、読めって言われた資料の中に入ってたはずだぞ・・・・初日に課長から渡されたマニュアル類を席まで探しに戻りました。
「あれ?Hさんは?」
あっちで本部長と一服してるわよ
観ると二人でタバコくゆらしながらリラックスして談笑しています。ったく・・・と思いながら部屋に戻りドラフトを始めました。
「ちなみにこの提携先信用できるところですか?どのぐらい契約し続けたいところですか?」
「そうだなあ、まあ、最低2年は続けてもらわないと困るんだ。あと信用って意味では問題ない。すぐにはつぶれないところだよ」
  そうなると、契約期間は2年を基準に、こちらからの解除条項をきつくしすぎる必要はないと・・・、自動更新も入れておくかどうかだな・・・などと必死こいて、親指シフトで入力しながら、Yさんの目の前で契約書を作っていきました。脇からYさんも覗き込みながら適宜疑問をぶつけながら・・・いつの間にか二人で契約書をドラフトしている感じになっていました。
  

・・・なんか気持ちよくねえか・・・

  ろじゃあはちょっとトリップしていたかもしれません。何なんだろうこの心地よさ。
  あれだけなんだこいつって感じで睨まれてしぶしぶやってた仕事なのに。入力する指も快調にドラフトされた条文を送り込んでいきます。いつもより確実に入力のリズムも速さもいい感じです。

  そして、3時半に何とかドラフトが完了。フロッピーに移して別の大型ワープロから打ち出して現物を課長に見てもらいます。しばらくして、課長曰く、
「ちょいとぎこちねえところもあるが、初めてとしちゃあ上出来じゃねえのか?65点ってところかな。大丈夫だ、これで交渉できるぜ」
「初めて?」
Yさんが大きな声を上げました。
「まあ、いいじゃあねえか、現にこいつはおめえの注文どおりに時間内に一定以上の水準のもんを作ってやったんだからよ。おい、○○(←ろじゃあの本名)。この赤字の部分だけ急いで修正して打ち出してもってこい。5分以内だ」
  おい、勘弁してくれよ~、どこを直すんだよ~と見てみると・・・確かにきつすぎたところがこなれた日本語になってます。これは法律勉強してた人間ならわかります。ほぼ同じ意味で日本語がやわらかくなってる・・・目テンのままろじゃあが修正して打ち出したものを確認したあと、課長はY氏にそれを手渡しました。
これで90点だ。時間が制限されてたんだ、これぐれえで勘弁してくれや。K専務には俺から電話いれとくからよ」
「はい、ありがとうございます」
そういってY氏は戻ろうとしたのですがそのとき後ろから
「んで、どうだい、うちのエースはよ?使い物になりそうか?」
「Hさんのところでもう少し鍛えてくだされば、うちでもそのうち通用するんじゃないんすか?それじゃ急ぎますんで。お礼はまたの機会に。失礼します」
  取り残されたろじゃあはまだぼーっとしていました。
  この時から、ろじゃあの中で法務の面白さのある面が確実に脳裡に浸透しはじめたのだと思います。

  次回は法務相談用の部屋での自問項目の続きと本社内での法務のお仕事について触れることにしましょう(つづく)

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Comments

毎回楽しみにしております。しかし、このシリーズはブログとは別に、なにかのメディアで公表とかはされないのですか?私がもっとも気に入っているのは、世間で「法務部」に対して抱くイメージと ろじゃあさんの実際の仕事ぶり(とても現実感がありますが)のギャップ(対比といいましょうか)が斬新だと思いますが。松下や関西電力のインハウスローヤーの方にお聞きする「仕事ぶり」とは異なり、やはり弁護士が法務部で仕事をされているのとはまた違うなあ・・・というイメージがたいへんおもしろい。ろじゃあさんが、法務部というものに対して「愛情」とか「期待」をもって書かれているのがよくわかります。昔よく読んでいた横田濱夫さんのシリーズを思い出してしまいました。

Posted by: toshi | August 15, 2005 05:41 PM

いつも楽しく読ませていただいております。
私も新入社員のころ、本社スタッフ部門配属だったので(法務ではなかったですが)、このシリーズを読ませていただき、あの頃の大変だった思い出とオーバーラップし、かなりグッと来てしまいました(涙)。まだ業務のことをよく知らないのに鳴り止まない電話を取り続け、「君、何年目?」、「君じゃ話にならないから●●さんと代わってくれる?」、「君、現場知っているの??」などといわれながらも負けずに営業店の古強者さんたちと交渉し続ける、泡を吹いてしまいそうなくらい忙しい日々でした。法務に限らないと思いますが、本社スタッフ部門は、言いにくくても本社としてとるべき原理原則を現場の方々にお伝えする一方で(結構、喧嘩になったりするんです・・・そんな話を聞きに来たんじゃないんだとか言われて。)、最前線で戦っている営業の現場の人たちのためにベストのソリューションを提供できなくてはならないのだということを身をもって教えられたものです。私にとっても本社での経験は、その後の仕事に本当に役立っています。
それでは、続編に期待させていただきます!!(それにしてもこの課長さん、本当に良い方ですね!)

Posted by: Grunty | August 16, 2005 07:17 AM

toshiさんへ
コメントありがとうございます。他のメディアですか・・・出したいんですけどね(^^;)。なんか心当たりがあればむしろ教えてくださいまし(^^)。法務部って確かに敷居が高いって印象あるんでしょうねえ。でも、すべての法務部がみんな弁護士さんが仕事してるって感じではまだないでしょうね。ちなみに、ろじゃあが描出してるのは大体バブルが終わる頃です。だから、ちょいと前の法務部になっちゃってるかもしれないのも事実です。でも、あんな法務部があってもいいなあって未だにろじゃあは思います。そして今の私を育ててくれたのは間違いなくあの法務部なのであります。たぶん、ロースクールの一期生が出始める頃から相当企業法務部は変わります。でも法務部の矜持は引き継がれて欲しいと思います。ちょっとかっこつけすぎですね(^^;)。引き続きご愛顧を。

Posted by: ろじゃあ | August 16, 2005 11:59 AM

Gruntyさんへ
いらっしゃいまし。そしてコメントありがとうございます。
「あんたじゃ話になんないから○○さんにかわって」・・・どこの部署でもこの台詞は一度は聞くんですよね(^^;)。お客様からも聞きます。この話はひとつエピソードがありますのでそのうち採りあげますね。
でもGruntyさんみたいに「言いにくくても本社としてとるべき原理原則を現場の方々にお伝えする」という姿勢は大切です。部署にもよりますが、本社に来ると態度がひどくなる人もいるのです。驕りはいけませんよね。コンプライアンスの組織やプログラムを作るときも、これは実はすごく大切な姿勢です。これもエピソードがありますのでお楽しみに。また遊びに来てくださいね。それでは。

Posted by: ろじゃあ | August 16, 2005 12:06 PM

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